歯科お役立ち記事

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3回シリーズ|歯科医院からはじまる発達支援のかたち① ~口腔機能を医院に取り入れた背景~

小児の歯科医療というと、虫歯の予防や治療、歯科矯正などがメインですが、実はもうひとつ大事なことがあります。それが「姿勢指導」「口腔指導」という機能の指導です。
姿勢は歯並びにも影響し、身体機能だけでなく、子どもの発達や、その子の人格形成にも大きな影響を与えるため、小児歯科において決して欠かすことのできないジャンルといえるでしょう。
そんな子どもの成長の要となる姿勢指導と口腔指導をプログラム化し、「SHISEIアカデミー」として歯科医院に広めているのが、THDC合同会社代表の堀尾 麻衣さんです。
堀尾さんは歯科医師のご主人と結婚後、ご自身のお子さんが発達障害のグレーゾーンだったことを通して姿勢や口腔の必要性を実感し、この事業を立ち上げたとのこと。いったいどのような事業なのか、詳しく伺ってみました。



THDC合同会社 代表 堀尾 麻衣さん

子どもの頃からダウン症や自閉症の子どもたちと触れ合う機会が多く、保育士幼稚園教諭としての道を歩む。結婚を機に夫の経営する「医療法人使誠会 高師ほんごう歯科クリニック」で勤務を始め、フッ素の塗布や矯正治療、メンテにくる子どもたちの姿勢の悪さや、口呼吸の多さなどに危機感を覚える。自身の子どもが発達障害のグレーゾーンだったこともあり、8年間に渡って発達発育と口腔との関連を研究。療育的な運動機能教室とMFTを合わせた「姿勢の教室」を、自身のクリニックで7年間続けている。



目次[非表示]

  1. 1.保育士を目指したきっかけ:ダウン症や自閉症の子どもたちとの出会い
  2. 2.歯科医院での新たな発見と挑戦:SHISEIアカデミー設立の道のり
  3. 3.SHISEIアカデミーとは?:お子さんの発達をサポートする姿勢プログラム
  4. 4.開催場所は歯科医院:SHISEIアカデミーの参加スタイル
  5. 5.姿勢だけではなく心にもアプローチ:SHISEIアカデミーの指導法
  6. 6.これからの歯科医療へ:姿勢指導を取り入れた未来への提案



保育士を目指したきっかけ:ダウン症や自閉症の子どもたちとの出会い


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――堀尾さんはいまのお仕事を始める前は、保育士だったそうですね。

堀尾さん:そうなんです。もともと子どもは好きだったのですが、幼い頃からダウン症や自閉症の子どもたちと触れ合う機会が多くて、障害を持つ子どもたちへの偏見をなくしたいと思ったのも、保育士を選んだ理由です。母親がピアノ教室をやっていて、ダウン症や自閉症の子どもたちも習いに来ていたのですが、そういう子どもたちに社会が偏見の目を向けていることに、ずっと疑問を感じていました。
そして高校生のときに、「お母さん、僕が生まれてごめんなさい」という本を読んだんです。脳性小児麻痺の子どもが、保育士さんとともに書いた本なのですが、それを読んで「保育士は障害のある子どもたちの代弁者にもなれるのだ」と思い、とても感銘を受けました。それがきっかけで保育士になりましたが、3年後に歯科医師の夫と結婚したので、保育士を辞めて夫のクリニックに勤め始めました。


歯科医院での新たな発見と挑戦:SHISEIアカデミー設立の道のり


――歯科医院では、どんな仕事をしていたんですか?

堀尾さん: 最初は受付を担当していました。そのときに、障害を持つ男の子のお母さんと話す機会があって、その方から「あなたがいるときに予約を入れたい」と言われたんです。その言葉がとても嬉しくて、「保育から離れても、歯科の現場で障害児のケアに関わることができるんだな」ということがわかりました。
それから妊娠・出産し、長男が発達障害のグレーゾーンだったことがわかり、発達障害についてより詳しく勉強するようになりました。そして2016年に夫が開業することになり、それを機に中庭にキッズスペースを作ったんです。来院したお子さんを預かって、お母さんたちがちょっとホッとできる時間を作れるようにしました。そのときに、自分の子どもだけでなく、他にも未発達があるお子さんたちがいることに気付きました。
そんな中、夫が小児矯正をはじめる話を持ってきました。口腔機能の分野も取り入れて診療していく方針だったのですが、セミナーや学会で「歯並びやお口の発達は姿勢が大事」とは聞くものの、では具体的にどうしたらいいのかを教えてくれる機会が、その頃はまだなかったんです。



――教えてもらえないなら、自分で見つけなくてはと思ったんですね。

堀尾さん: ええ、そうです。姿勢のプロといえば整体師さんかなと思い、まずは地元の整体院さん10件ぐらいに、「子どもの姿勢について一緒に考えませんか?」とお声をかけました。でも、あまり収益に結びつかない仕事なので、誰にも受け入れてもらえませんでした。
でもラッキーなことに、現在私の会社の副代表をしている理学療法士の横山が、キッズの体幹トレーニングをやっていて、一緒にやりましょうということになったんです。そしてパーソナルトレーニングと機能指導を、プログラムとして提供するようになりました。
ところが受講者が数十人になったところで、横山が妊娠をして、パーソナルトレーニングができなくなりました。そこで何とかしなければと、横山がやっていたパーソナルトレーニングを一元化しながら、再現性のとれる教育プログラムを作り、2019年に「SHISEIアカデミー」をスタートしました。
1教室6人の少人数で、1日2コマか3コマをやっていますが、教室は、少人数でありながら、専門的にみてもらえると、子どもの姿勢が気になるお母様方にとても喜ばれています。


SHISEIアカデミーとは?:お子さんの発達をサポートする姿勢プログラム


――SHISEIアカデミーは、どんなお子さんが受講しているのでしょうか?

堀尾さん: 自分のイメージと実際の体の動き方が違うことを、把握してないお子さんが多いですね。神経の統合ができていなくて、体がなかなか思うように動かない状態です。縄跳びをすると、小学3年生でドタドタ飛びをする子はザラにいます。



――そのようなお子さんに対して、SHISEIアカデミーではどのようなプログラムを提供していますか?

堀尾さん: 発達の感覚統合といって、赤ちゃんが1歳までに獲得すべき神経伝達がスムーズにつながり、思うように体を動かせるようになるためのプログラムを組んでいます。
赤ちゃんは最初4足歩行で歩き、それから2足歩行に展開していきます。では姿勢はいつできるのかというと、授乳、おぎゃーと生まれた時から本来始まっているのです。
また、くびがすわるから始まり、寝返りをしたり、ずりばいや四つばい、高ばいをしたりしたときに、一つ一つの筋肉を獲得していきます。ところが、そのうちのどこかを飛ばしてしまったり、どこかでつまずいてしまったりすると、姿勢がおかしくなってしまいます。
それを直すためには、飛ばしたりつまずいたりしたところを、もう一度やり直せばいいということで、そのための姿勢指導プログラムになっています。



――赤ちゃんの時に獲得できなかった能力を、10歳過ぎたりしていても追いつけるものなんでしょうか?

堀尾さん: はい、伸び率は限定されてしまいますが、身体バランス、体の使い方と脳の連動が上手になった子は、たとえばマラソンでいつも最下位だった子が3位になったり、縄跳び大会で100回飛べなかった子が1,250回飛べたりしたこともあります。


開催場所は歯科医院:SHISEIアカデミーの参加スタイル


――子どもたちは月に何回、SHISEIアカデミーに通うのでしょうか?

堀尾さん: 月に1回から4回通っていただくことになっています。開催する場所は歯科医院さんで、診療とは別に来ていただく形になります。月4回通うお子さんもいれば、月2回通うお子さんもいます。
時間は集団指導が1時間で、個別指導のときは30分になります。たとえば集団指導が「毎週火曜日の4時半クラス」と決まったら、そこはもう固定で、子どもたちもインストラクターも1年間変わりません。個別指導は月に1回あり、好きな時間に予約を取っていただきます。家が遠かったり、他の習い事で忙しかったりする場合は、月1回の指導になることもあります。


姿勢だけではなく心にもアプローチ:SHISEIアカデミーの指導法

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――SHISEIアカデミーの特徴は、他にもありますか?

堀尾さん:SHISEIアカデミーでは、「心と体の姿勢の土台作り」を目標にしています。SHISEIのSHIは「躾」、SEIは「成長」 Iは「育成」の意味があるのですが、私たちは子どもたちの躾もとても重要視しています。
なぜ躾を重要視しているかというと、「自分の決めたことをちゃんと守る」といった人間として基本的なことを習慣づける、できないことを「努力し続ける」ことは、お子さんが今後育っていき、生きていく中で、とても大切なことだからです。
また、最近は大人と子どもの距離が近すぎることも、問題だと感じています。お母さんのことを「バ~カ」とか人前で「ばばあ」と平気で言ったりするお子さんもいますよね。お母さん自身も、「なんでそんなことを言うの?」ぐらいの言葉で終わらせてしまうこともあります。
そういった子どもたちの心の姿勢を直していくことも、SHISEIアカデミーでは大事にしています。歯科医院という、地域に根ざした場所だからこそ、それができるのかなと思っています。


これからの歯科医療へ:姿勢指導を取り入れた未来への提案


――歯科医院の院長先生に向けて、堀尾さんからひと言メッセージをお願いします。


堀尾さん:歯科医院の先生方は、日々一生懸命治療をされ、最上級の医療を提供されていることと思います。現在歯科は予防に重きが置かれるようになり、国からも口腔機能の維持・向上について、さまざまな提言がなされています。
そんな中、口腔機能すなわち、「呼吸・咀嚼・嚥下」というのは、口だけで行うものではありません。身体との一連の連動性があって、行われる呼吸・咀嚼・嚥下を取り扱う上で、今後、子どもたちの姿勢指導も、歯科医療にとって重要な取り組みのひとつになっていくのではないでしょうか。まだ取り組まれていない先生方は、日本の歯科医療をより向上させるためにも、ぜひ取り組んでいただけたらと思います。



――堀尾さん、ありがとうございました!

この記事では、子どもたちの発達や成長に情熱を注ぐ堀尾さんの活動と姿勢指導の重要性をお伝えしました。
子どもたちの心と体の両面から成長をサポートしているSHISEIアカデミーの活動は、未来の歯科医療の新たな一面にもつながっていくかもしれません。
そんな堀尾さんの取り組みを、ぜひチェックしてみてください!

次回、2回目は実際に歯科医院でスタッフがどのように指導しているか伺ってみたいと思います。
堀尾さん次回もよろしくお願いいたします!

>>第2回 Coming soon>>




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▼堀尾さんのセミナー
タイトル「3回シリーズ:見逃さない!口腔機能発達不全症への理解と現場対応力アップ」

・第1回 2025年7月11日(金)13:30〜14:00
・第2回 2025年8月8日(金)13:30〜14:00
・第3回 2025年9月4日(木)13:30〜14:00

  3回シリーズ:見逃さない!口腔機能発達不全症への理解と現場対応力アップ 口腔機能発達不全症の子どもには、姿勢や呼吸、運動機能の発達の遅れなど、全身に影響が現れることがあります。 その背景を正しく理解することで、より根本的な支援につなげることが可能になります。 本セミナーでは、MFT(口腔筋機能療法)を用いた姿勢や呼吸と連動した介入方法や、現場で実践できるサポート方法について、実例を交えながら3回に渡りお伝えします。 デンタルシステムズ株式会社



記事執筆 /インタビュアー 伊藤 樹理
記事執筆 /インタビュアー 伊藤 樹理
ライター歴26年。これまで200 件以上の病院やクリニックを取材し、インタビュー記事やホームページのライティング、医療従事者向けのコラムなどを経験。日本人が本当の意味で健康になれる医療を、文章を通してサポートしている。